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【新刊】目の眩んだ者たちの国家 キム・エラン , パク・ミンギュ , ファン・ジョンウン , キム・ヨンス他 著  矢島 暁子 訳 新泉社

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「どれほど簡単なことなのか。希望がないと言うことは。この世界に対する信頼をなくしてしまったと言うことは。」
――ファン・ジョンウン

国家とは、人間とは、人間の言葉とは何か――。
韓国を代表する気鋭の小説家、詩人、思想家たちが、
セウォル号の惨事で露わになった「社会の傾き」を前に、
内省的に思索を重ね、静かに言葉を紡ぎ出す。

「私たちは、生まれながらに傾いていなければならなかった国民だ。
傾いた船で生涯を過ごしてきた人間にとって、この傾きは安定したものだった。」
――パク・ミンギュ

「みんな本当は知っているのに知らないふりをしていたり、知りたくなくて頑なに知らずにきたことが、セウォルという出来事によって、ぽっかりと口を開けて露わになってしまったのだ」
――ファン・ジョンウン

「私たちが思う存分憐れみを感じられるのは、苦痛を受ける人たちの状況に私たち自身が何の責任もないと思うときだけだ。」
――チン・ウニョン

「「理解」とは、他人の中に入っていってその人の内面に触れ、魂を覗き見ることではなく、その人の外側に立つしかできないことを謙虚に認め、その違いを肌で感じていく過程だったのかもしれない。」
――キム・エラン

「人間の歴史もまた、時間が流れるというだけの理由では進歩しない。
放っておくと人間は悪くなっていき、歴史はより悪く過去を繰り返す。」
――キム・ヨンス

◎中島京子氏評「2018年の「この3冊」」(「毎日新聞」2018年12月16日)
《傾いた船に乗って沈もうとしているのは私たちだと感じている昨今、その苦しみを噛みしめながら書かれた言葉に打たれる。》

◎「セウォル号以後文学」の原点

2014年4月16日に起きたセウォル号事件。修学旅行の高校生をはじめ、助けられたはずの多くの命が置き去りにされ、失われていく光景は韓国社会に強烈な衝撃を与えました。
私たちの社会は何を間違えてこのような事態を引き起こしたのか。本書は、セウォル号事件で露わになった「社会の傾き」を前に、現代韓国を代表する小説家、詩人、思想家ら12人が思索を重ね、言葉を紡ぎ出した思想・評論エッセイ集です。
本書に寄稿している作家たちの文学作品は、近年、日本でも広く翻訳出版され、多くの読者を獲得するようになりました。それら新世代の作家が深く沈潜した場所から発した研ぎ澄まされた言葉の数々は、揺るぎない普遍性を獲得し、「震災後」の世界を生きる日本の私たちの心の奥深くに届くものであると確信しています。

《本書に収録された文章は、季刊「文学トンネ」2014年夏号と秋号に掲載された後、同年10月に単行本化されて韓国で増刷を重ね、多くの人に読まれてきました。キム・エラン作『外は夏』に代表される韓国の「セウォル号以後文学」の原点といえる本書を通して、韓国の作家たちが喪失と悲しみにどう向き合ったのかを知っていただければと願っています。》
【出版社の内容紹介より】

四六判上製256頁
1900円+税
ISBN 978-4-7877-1809-9
2018.05.25発行

12人の小説家や学者たちが2014年に書いた文をまとめた本。『セウォル号は船が沈没した「事故」であり国家が国民を救助しなかった「事件」なのだ。』2017年に韓国では大統領の弾劾が成立し、マスコミも全て刷新された。一体どうすればーそう問うていた3年後には、韓国の人々は答えを出していた。

2014年4月16日に起きたセウォル号沈没事故。

わたしが最初に知ったのはたぶん日本のニュースかワイドショーだったと思う。ワイドショーで、どうして船が沈んだのか、積載量はどうだったのか、船の構造は…などという話を延々していたような記憶がある。

次に聞いたのは数年後、2014年4月から始まった私の好きなラジオのパーソナリティーの番組をさかのぼって聴いていた時。4月14日の回からしばらくの間、ラジオのパーソナリティーの沈痛な声と悲しく静かな音楽が流れる放送を聴いた。もともとは明るく楽しい雰囲気もあるラジオ番組だったけれど、その間の放送は全く違ったものになっていた。

その次は「共犯者たち」という映画の中で。

そして、昨日、この本で再びセウォル号に出会った。細かく言えば、「外は夏」というキムエランの短編集で、BTSの「spring day」という歌の中にもセウォル号はあった。

ファンジョンウンという作家の書いたものが読みたいと探していて、偶然手にした本だった。前に知り合いからタイトルを聞いて知ってはいたものの、そのままになっていた本でもあった。

すぐに読み始めて、感想をUPしようとしたけれど、できなかった。最後まで読み込めず、言葉が出てこなかった。1日経った今なら書けるのか、心もとないけれど、思ったことを書いてみようと思う。

収録された12篇の文章はどれもセウォル号沈没事故が起きた2014年の夏と秋に季刊誌に掲載されたもので、12人の小説家や詩人、文芸評論家、社会学者、言論学者、精神分析学者、現代政治哲学研究者が書いている。学者が書いたものは、私にはちょっと読みづらく、咀嚼できずに終わった感がある。

一番心に残ったのは、小説家パクミンギュが自分の章「目の眩んだ者たちの国家」の中で言う、

セウォル号は

船が沈没した「事故」であり                     国家が国民を救助しなかった「事件」なのだ。

もうこの2枚のフィルムは切り離さなければならない。

という文だった。

そう、セウォル号は単なる沈没事故ではなく、沈没しかけている船をみんな見ていながら、船長も船員も、海洋警察も、政府もマスコミもみな誰一人船に残された300人以上の高校生たちを助けようとしなかった事件でもあるのだ。

この本の中で多くの人が、セウォル号沈没事故が起きた時、自分は何をしていたか、周りの人はどうだったかを書いていた。みんな、最初は全員救助の誤報を信じ、大したことないと思っていた。それが、もうセウォル号以後の世界は存在しないとまで言わせる事件に変わっていく。

そして、この文章が書かれた当時は、批判的な文章を書くのも大変な時期だったのかもしれない。ではこの事件をどうすればいいのか。なにをすればいいのか。誰が何を答えればいいのか。そんな問いが12篇のどれからも浮かんできていた。

「しかし、みんな一緒に滅びてしまったのだから質問しても無駄だ。と私が考えてしまったその世の中に向かって、遺族たちは、持てる力を振り絞って質問をしていたのだ。」「ならば今度は私は何をすべきなのか。彼らの質問に応答しなければならないのではないか。」ーファン・ジョンウン

「これは最後のチャンスだ。どんなに困難でも辛くても、私たちは目を開けなければならない。」「私たちが目を開けなければ 最後まで目を閉じることのできない子どもたちがいるのだから」ーパク・ミンギュ

「そして、この質問に対して小説家はどんな使い道があるのか考えてみる。誰でも考えられそうな話を長く引きのばして書くこと以外に、どんな効用を期待することができるのだろうか。それでもどこかに答えがあるだろう。少なくともこの仕事は、プラスペンが一本、目の前を通り過ぎるとき、手を伸ばしてそれを掴もうとする力ぐらいは与えることができるのではないかと、期待してみる。」-ペ・ミョンフン

この日本語訳が出たのは2018年。2017年に韓国では大統領の弾劾が成立し、それを実現した運動はキャンドル革命と呼ばれた。大統領の息のかかっていたマスコミもすべて一掃された。このあたりのことは「共犯者たち」の映画を観て知った。

いったいどうすればいいのかーそう問うていた2014年から3年後には、韓国に住む人たちは答えを出したのだと思う。それで世界がすべて変わるわけではない。今もいろんな問題は起きている。けれど、応えたのだと思った。韓国の人たちは。

キム・エランが本書の中で語っている言葉

「理解」とは、他人の中に入っていってその人の内面に触れ、魂を覗き見ることではなく、その人の外側に立つしかできないこと、完全に一体にはなれないことを謙虚に認め、その違いを肌で感じていく過程だったのかもしれない。そのうえで、少しずつ相手との距離を縮めていって、「近く」から「すぐ隣」になることなのではないか。

私がとても好きなラジオのパーソナリティーの座右の銘は「理解よりも認めること」だった。きっと彼の言う「認めること」が、キム・エランの言う「理解」なのではないかと思う。

私たちはお隣の国韓国で起きたセウォル号の事件を理解し、そしてその後で起きたできごとに、力をもらうことができるのではないか。私たちの国にもあるセウォル号事件をそのままで終わらせないために。【お店より】

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